[感想]スリー・クォーターの失踪 - シャーロック・ホームズの叡智 (新潮文庫)(シャーロック・ホームズの帰還)

4102134107シャーロック・ホームズの叡智 (新潮文庫)
コナン・ドイル 延原 謙
新潮社 1955-09-22

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ついに叡智(新潮版のみのシリーズ最終巻、ページ事情による収録漏れを集めただけのもの)を読んでいます、これを読んだら正典は全部終わりなのです。嬉しくもあり寂しくもありしかし早めに読み終わっておくこともさらなる考察の上で重要な事でもあると思う。
「スリー・クォーターの失踪」は本来は「帰還」収録の話のようですね。

さて、スリー・クォーターの失踪!このお話には驚いた!
短編でここまで熱くなるのも意外と少ないと思うんです
意外にも凄い展開と細かい要素がいっぱいの素晴らしい話じゃないでしょうか!
もうちょっとで長編になりそうなくらいの構成がいい!

なにい~!?っていうのが多かったので語りたいから感想!







意外な展開!


喜劇的な依頼者の登場で、割りと和やかな事件かと思いきや深刻な展開と強敵の出現!そして数々の興味深い(萌える)ホームズの一面が見れて、う~ん これはたまらん☆
叡智は、収録漏れの本で、もちろん収録漏れしたタイトルがつまらないということではないですから!と、あとがきにも書いてあったのもわかってはいるんですけども、なんかつい、あんまり期待しないで読んでいた。その気持ちを見事に裏切ってくれた!面白かった!


オヴァートンの電報
さっぱり意味は分からないがさらっと読み流しましたが、読み終わってからもう一度読んでみると笑える。オヴァートンくんの天然ぶりはかわいい。そしてそれを読んで15分も考えていたホームズもかわいい。わけわからん、って放り投げないで、15分もいろいろ考えてみたんですよ‥べつにオヴァートンくんのためではなく、解けないパズルをすぐに放り投げるのはポリシーに反するから、推理をやり尽くしたのでしょうね。

私はこの無為の期間というやつがはなはだ恐ろしい
この段落はこれまた、ホームズ萌的に非常に、貴重な、注目すべき描写の宝庫ですっ! 後のほうで言っているに割りと後期の話であるのに、それでもやはり恐ろしいんだ‥。たしかにそれは依存症において当然のことですが。それよりも個人的にはやはり!ワトソンさんのこの心底から恐ろしいと思っているほどの心配、親身な思いやりがたまらないです。

その輝かしい経歴を一度は脅かしかけた麻薬嗜好の悪癖を、私は何年もかかって徐々に捨てさせた。
このホームズの依存症は私的にはとても萌えどころ‥いや、私だけではないですよね、むしろかなり普遍的萌えどころと思っています。
これを読むと‥ 「一度は脅かしかけた」‥ということは、積極的に解釈すると、何かほんとにピンチなことになりかけたことがあるのかもしれない。「輝かしい経歴を」と言ってるのである程度功績が一般に知れ渡ってからのことでスキャンダルになりかけたことがある、というふうに読める。そういう話の記述は私が今のところ読んだ中にはなかった(まだ読んでいないのが2本ほどあるけどさすがにその中にその話はないだろう)ので、ううーんどんなことがあったのか気になって仕方ないーー。消極的に解釈すれば、常々どうなることかわからない状態で肝を冷やしていたともとれますが、「一度は」と言ってるからひとつの時に起こったアクシデントが想起されるらしく、やはり何かあったんだろうと思う。
そして何年もかかってやめさせたのは「私」だということにも私は驚いた。ワトソンさんのホームズに対する影響力は私の考えていたよりもずっと偉大!!!! 最初の頃は、やめろって言おうとしてはぐらかされてなかなか言えずにいた消極性を感じていたので、相変わらず責めるような眼で見たりちょっと小言を言ったりしつつも止められないで悩んでいるのだろうかと思ってた。そこまで立ち入ることはホームズが拒絶している様子を感じたので、ホームズが愛する「ワトソンさんの沈黙で寄り添う姿勢」からすると、立ち入らないワトソンさんだからこそ立ち入らない‥というのもありではないかと無意識に思っていたんだ。でもこれを読むと決然と!医師としての職務を果たし、ホームズの健康と成功を守ったのですね‥ワトソンさん素晴らしい‥。よくやめさせたね。それにあの言わないが拒絶バリアを張ってるホームズは、ワトソンさんの治療をよく立ち入らせたものだとおもう。それはやっぱり、ワトソンさんへの無二の信頼と尊敬あればこそではないでしょうか。ワトソンさん以外のお医者が言ってもダメだと思う。
そして「何年もかかって」というのはどこから起算されるのかも興味深いです。すると大空白時代の前か後かということが気になりますが、なんとなく 「何年も」と言っているとなると、その後の可能性のほうが高い気がしますね。すると、かなり長い期間に渡って依存症を続けてきたと考えられ、大丈夫かと心配になってくるってばよ‥。その後、まだらの紐戯曲を読むと、最後の事件前には一旦やめてたっぽい描写があったし、他のパスティーシュでも前にやめてる描写になっているから、基本的には最後の事件前に治療した‥というのが痛切なのかな。
何年もかかったその治療はどのように行われたのかを考えるだけでも美味しい。やっぱり美味しい‥美味しい設定すぎて考察が止まりません。
で、それが結実したのがあのパスティーシュなわけだ。やっぱりみんな同じところに萌えるんだぜ

邪念が休眠状態に入っているだけなのはよく分かっている。‥ひやひやさせられる
この深刻な語り方からも、相当苦労をして治療したのがうかがえるというものです。ワトソンさんのおそれの深さを感じます。しょっちゅう、退屈そうなホームズを見てはヒヤヒヤして心配して気が気じゃないんですワトソンさんは。ああかわいそうなワトソンさん‥。事件がないことは「私達はすっかり退屈し」と言っているので実はワトソンさんも退屈でつまらなかったようですけどもね。平和で事件がないゆったりした時間を二人で楽しく過ごす‥ことはできない二人のようです(笑)ホームズはもちろん平和な時間など大嫌いむしろそのうち頭が壊れるとしょっちゅう言ってるくらいだし、ワトソンさんもワトソンさんで危険な出来事が起きると血沸き肉踊り大活躍したくなり冒険と聞くだけで引き寄せられてしまう冒険野郎のため、二人共、面白い事件がないと ぐだー‥暇だ暇すぎる鬱だ‥なんですね。そのうえ単に自分がつまらなくてモヤモヤするだけでなく、ホームズの顔を見てはヒヤヒヤしていなければならない、鬱になりそうですワトソンさん。となると何かホームズの気を引くことを一生懸命言ってみたり探してみたりしていたに違いない。コンサートに行ってみたり、研究の題材になりそうなものをけしかけてみたり、新聞に載っている事件についてたずねてみたり‥うん、すぐに一蹴されそうでかわいそう。
ホームズ~‥こんなにワトソンさんに心配してもらって幸せですね‥っていうかそんなに心配かけるんじゃないですよ!

オヴァートンの相談
ホームズのもとには様々な 変な依頼人が、変な事情を持ち込む‥というのがパターンだそうですが‥。実は私はあんまりその形式というものを意識せずに読んでる気がする。パターン化というのは嫌いなんだけど、ホームズのパターンというのは案外と‥一部を除いて 気にせず読んでるなあ。特に依頼人の登場パターンは気にならないで楽しんでいる。たぶん依頼人の登場周辺に、私の気をより強く引いてくれる情報が散らばってるせいですね!
それはともかくそれにしてもこのオヴァートンくんは 全く珍しいパターンの依頼人じゃないですか。変な人は多いけど、いままでになく笑わせてくれる微笑ましい依頼人なんだもんね。かつてなく、さっぱりわけが分からなかった‥という。無邪気な言い方が特に微笑ましくて、すごくいい!
それでもちゃんと備忘録から名前検索してくれるホームズの親切さには感動した!
オヴァートンくんにはもうとにかく微笑ましくて、ホームズもずっと微笑んでいるのがまたこう‥心温まりました。

このフェアプレーの清らかな世界にも、私なんかの出動の余地が
アマチュアスポーツの世界を語るホームズの、ある種皮肉を含んだセリフには色んな感情が込められていますね。犯罪への憎しみと自分への失望と自負、そして犯罪とは縁のない(と思っている)清らかな世界への慈愛と憧れ。ホームズの優しさ、ホームズの悲哀・孤独、諦念。こういう自分の穢れを悟りきった諦めた寂しそうなところ、それでいて清らかなものに対する信仰のような愛を奥底にずっと持ち続けているところが、ホームズのとても素敵な、愛しいところです。すごく純粋な人なのだと思わせるところです。

マウント・ジェームズ卿
この爺さんは(笑) いやはや、この話はほんとに面白い人物が登場するよなあ。この爺さん結局あんまり登場しなかったけどすごいキャラだったわ。笑えるポイントが盛りだくさんで驚きました。ううーんでも こういうヒトは実は世の中に結構いそうですね。面白い。人によっては相当ウケるキャラじゃないでしょうか。ホームズは機転を利かせて簡単に操作してましたが、それでも不愉快と言ってるくらいなのでやっぱりヤなんだなと、そこも面白かった。
最後に10ポンドまで出せると言ってて、当時の貨幣価値調べてみたけど「1ポンド=20シリング=24,000円」(さすがホームズは!みんなよく調べてるから簡単に当時の貨幣価値も出てくる!いいなあメジャージャンルは!)ということは12~24万円まで出してくれるのか。探偵の相場がどのくらいかはわからないけど、もっと信じがたいドケチな事を言ったのかと思ってたので‥思ってたよりもうまく操作したんですね。もっと低い金額を言ってたほうが面白かったと思うんだけどな。どうせ元からホームズはお代をもらう気もあんまりないはずですし、低い金額を言われてもハイハイって別れたほうが笑えたと思う。

七通りの策をたてていたんだが、第一策でいきなり成功しようとは
ニヤニヤ喜ぶホームズにちょっと呆れてるワトソンさんですが、読んでて私もニヤニヤした。ホームズのだましのテクニックは見ていて毎度面白い、まさに「変身」!特に何が面白いかってたぶん‥いつも紳士的な、割りと気高い言動のホームズが‥って、まずそう感じていることがまた面白いけど、 そんなホームズが、相手を油断させるために大概低俗な人物を演じる点ですよね。エヘヘ‥って下卑た笑いをしてみせるでしょ(そう書いてあるわけではないが目に見える)、ホームズがさぁ。 いや、ホームズは最高の俳優クラスの演技力をもつので何にでもなれるのですが、それは分かっているんだけども、想像して毎回面白いんだよ、どうせ演技なのはわかってるけど面白いんだよ、わかってくれますか?
しかし更に七通りもあるとは。多分1策が失敗したらそのまま展開できる方法で半分くらいは用意していると思うんで、失敗したときまたどんなふうに回すのか、うーん想像しただけでしびれます、ホームズの度胸には!!

私がいかに本職から遠ざかっているか
あとで中年と言及してたので、中年の頃らしいが、医者のお仕事してなかったのですか?? 何をして暮らしてたの?もう引退してたの? ホームズの相棒をするのにそんなに何もかもなげうってたの?ホームズから生活費を出してもらってた‥いや、年金もらってるからそれで暮らしてたのか?ん・・それは足りなかったからルームシェアしたわけだし、医者で稼いだぶんとかで蓄財したからよかったのかな? それにしてもそれじゃあ毎日暇だったのでは‥競馬してたから暇じゃなかった?(笑)
私にもやっとそろそろわかってきましたよ、この・・逐一考察したくなってしまう、さも当然のようなサラリとした情報の小出し具合の巧さが。ドイルさんの筆の巧みさ。読者の知らなかった情報を、いかにも当然らしく具体的にそれでいて部分的にさらっと出してくる。歴史(時間)的な事実ならこのようにサラリと、人物的な事柄は意外と具体的に分析されていたりして、どうにも気になり考察せずにいられないのだ!!!しかも各エピソード時系列で書かれてないし、常に不明な点や曖昧さを残しているところが、実に、‥惹かれてならない‥。こういうところを考察したりしたくなっちゃうヒトにとっては、ホームズシリーズは恐ろしく魅力的な作品になってしまうわけだ。ドはまりしてる自分を改めて思う。

あなたが個人の秘密に立ち入るからです。
レスリー・アームストロング博士の批判にはなかなか驚いた。ほんとにこのお話は異色な気がする‥キャラクターが今までに比べてもほんとに面白い挙動をしている。ホームズ作品の中にはドイルさん本人が書いたものではないものもあるのではないかと言われているそうですが、この作品の人物から感じる雰囲気はいつもとかなり違うので、もしかして‥とちょっといま一瞬思ったりもした。ま、私は誰が書いていても面白ければいいとは思うし、ドイルさんが発表したならば誰がネタを提供しようともきちんと本人から認証された正典であり公式として捉えたいと思います。ともかくすこしこの話は 今までと見方を変えて取り組んだものなのかもしれない。
ホームズがアームストロング博士の批判を当然ですと(皮肉交じりながら)認めるあたりも興味深い。既に高名なホームズはこうして 犯罪者以外でも良識ある人間から俗で下衆な暴き立て屋と批判されることが少なくなかったと思わせる。ホームズとしてはポリシーと間逆なのでそれは不本意な評価ですが、自分を誰しもに理解し評価してほしいとは思わない‥と表面的には思って(思い込んで)いる。そこにもホームズの孤独と矛盾があって、心が惹かれてしまうのです。
それにしてもこうしてアームストロング博士とホームズを対立させるやり方は自然で巧い‥してやられた。

ホームズは大声で笑い飛ばした。
「ホームズが声をあげて笑う時は相手にとっての凶兆」という例のすばらしい表現を思い出さずにはいられないところでしたが、意外な展開になりましたね。執念深く追い詰めたことは間違いないけど。

モリアーティ教授亡き後のギャップを埋めるのに、あれだけ適当な人物は
それほどまでに!!と衝撃を受けたセリフ。さすがに言いすぎだったかもしれないけど、知性と品位と胆力・行動力ではモリアーティ教授に並ぶほどの人間だということだけ受け取っておきましょう。すごいな。そしてこれだけ言うということはホームズはこの博士にすんごい対抗心を燃やしてワクワクしているってことだ。いい友だちになれるでしょうね。

仕事がうまくゆかないときの癖で、半ばおどけたような、それでいて諦めきった態度で
自尊心が強すぎるせいか‥うまくいかないとヤケっぽい態度に出るホームズが可愛い。諦めきった態度ってのが特にね、全然諦めてないくせに、もうだめだ!全然ダメだ!みたいなことを言ってみたりするヤケを起こすところが可愛い。なぜそんな態度をとるのか、考察しだすと止まらないな。自分なりに舞台の起伏を演出しようとしているような気もするんですよね、ワトソンさんに対して。ワトソンさんがいなかったら諦めきった態度は取らないんじゃないですか。ほんとにだめになるまでは諦めない、悪魔のようにしつこい男ですからね、ホームズは。

君は今晩は素晴らしく明敏だね!
まあたワトソンさんを皮肉って楽しんでいるな‥自分がうんざりがっかりしてるのにワトソンさんを馬鹿にして巻き込んで性格が悪いです。ワトソンさんがそれを本気にしないでいつも優しく受け流し(てるかどうかは分からないが)気にしないでくれる人でよかったよねえ。っていうか、それを気にする人だとホームズと一緒にはいられないよな‥。ワトソンさんの寛大さに‥乾杯!!

アームストロング博士の手紙
ホームズを打ち負かした上に こんなに不敵な手紙をよこす相手もなかなかいない。これは面白い展開だ!!と熱くなりましたよ! そしてやる気満々に熱くなってるホームズが、いかにもいい。ホームズのこのひねくれた嫌な負けず嫌いの自信家ぶりがいいんですよ。私はホームズの性格が大好きだけど、読んでいるだけでもこういう奴は嫌だなーという人もいるだろうね(笑)

彼が注射器を持ているのを見ると、私はぞっとするのだ。
この衝撃的な展開も今までになくて実に驚き、見事! 最初に麻薬中毒のことに言及したのは確実にこのためですね。ホームズとワトソンさんの関係を、ホームズ自身のことを、事件の中にこれほどわざと入れてきたのは、それにしても珍しい印象を受けざるを得ない。なにかきっかけとか事情があったように感じる。やはりこの頃は新鮮味を出そうと試行錯誤していて、あの依存症の件に言及すると読者が喜びそうだと思っていたのかもしれない。全く正解ですよ!
そしてこのワトソンさんの激烈な反応を見るからに、ホームズの依存症がひどかったことが思いやられます。やはり治療はトラウマ並に辛かったのではないだろうか‥。「彼の唯一の弱点」という表現もまた考察したくなる興味深さ。依存せずにいられない弱さ、体面上でも精神上でも一番脆いウィークポイント。 ‥ん~でもホームズの弱点ならワトソンさん自身が結構そうだと思いますけどね(笑)

こいつは有害物どころかこの事件の謎をといてくれる
微妙に曖昧なホームズのセリフが逆に心配になった考えすぎの私でした。やっぱ例の‥「素敵な冒険」のトラウマがあって(笑)、ホームズの言うことをたまに信用出来なくなるんだよ(笑) アレは先に読んではいけなかった、と、思う一方で このセリフを簡単にスルーしないでじっくりと疑って楽しめることに感謝もすごく感じる(笑)

中年のロンドン紳士よりは早い
ここで中年だということが言及されているが、しかしそのあんまり早くなさそうな犬ポンピーに比較してホームズがトロいといわれてもどうにも信じられないのは私だけかな。自転車で馬車を追跡しまくってもいたし遠出しまくってもいたし。ワトソンくんのことかもね?

こうまで手の込んだ欺瞞をやる理由が知りたいもんだ
この話ではさすがのホームズも動機が全くわからず、アームストロング博士の魂胆も全然予測できていないんですよね。珍しいことだなあ。

では行こう、ワトソン君
結末は悲劇だけど和解もあり、愛があって虚しく、そして語ることなく去っていく二人と風景が なんとも言えない余韻を残して美しい。大冒険のあとでアッサリと終わっているところが意外だけど、あまりにも悲劇的な結末で、言葉が出てこないですね。でもとっても意外な展開でこれはやっぱりいい作品だったと思うんだ! 色々とこのあと関係者たちがどんなことになったのか語られない部分が多いですがそれを想像するのも 楽しみなのでOKOK





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