[感想]シャーロック・ホームズの秘密ファイル (創元推理文庫)

4488272010シャーロック・ホームズの秘密ファイル (創元推理文庫)
ジューン トムスン 押田 由紀
東京創元社 1991-05

by G-Tools




パスティーシュの中でもかなり評判が良かったからとりあえず買ってみた。
「正典の中で言及されながらも発表されなかった記録」というテーマで、
正典の短篇集と同じ形式で書かれたもの。

評判がいいだけあって、なかなかいいかんじで楽しめました!
続きも何冊もあるようなのでとりあえず買おうと思います。









文体


とにかく全体的に、例のブリキ缶の中の未発表ワトソン原稿という設定で書かれているので、あくまでも似せようとして書かれています。文体にはほとんど違和感もなく、いい感じに思いました。

ホームズの性格‥とかは、少し、違うと感じるところもあるのかもしれないけど、最初はちょっとしっくりこない気もちょっとしてたけど、だんだん気にならなくなりました。
私は推理は再三言うけどどうでもよくて、ホームズとワトソンさんにしか注目してないんだけど、ホームズの性格のとても微妙で繊細な描写をちらっとだけ見せるドイルさんの手法的なところが素晴らしいバランスで使われていて、正典と同じようにこまかーいところで萌えられました。

短編のテイストというか事件の性質については、正典のようにオシャレで奇妙で綺麗で面白くどことなく温かい‥というテイストから外れる話が多いかな‥スキャンダラスな物が多い‥と思うのですが、それはこのシリーズの設定自体が「スキャンダラスな理由から公表できなかった記録群」ってことになっているので、しかたのないことときちんと納得できてしまうところがしてやられた、うまいな!とおもいます。 あの正典の短編のバランス感覚は他の人が書こうとしても難しいものだと思うんだけど、非公表作品っていう設定を盾にできるところは‥ホームズパスティーシュならではだなと思って感心します。

あくまでも正典の雰囲気を踏襲しているので、トンデモなできごとが起きるでもなく、トンデモ設定でホームズやワトソンさんがどうにかなるわけでもなく、とにかく安心して読める本だと思いました。
あとがきでも、多くの書き手がやりたくないはずの、一番面倒で難しいはずの形態の正統派な贋作と評価されていて、確かに確かに!これはいろんな考証が必要で面倒くさいだろうな、すごいことだなと思います。


パスティーシュというもの?


素敵な冒険でも思ったんですけど、いちいち編者(設定上、ワトソン原稿を見つけて編集した架空の人物や著者)が研究的な考察を注釈として逐一書いてるのがうるさい。 これはホームズパスティーシュのお決まりなんでしょうか?
正当化したい気持ちはわかるけど、私のようにあくまで作品に没頭して読む者としてはいちいち 何々を参照とか書いてあると、パスティーシュであることが不必要に逐一指摘されてるようでとても邪魔です。なんなら全部まとめてあとがき的に書いてくれたらいいのに、いちいち「※」して欄外に書いてあるので見ないように頑張りました。

あと序文でワトソン原稿の入手経緯(創作)を長々ご説明いただくのもうんざりするのは私だけでしょうか‥。そういうことは全部まとめてあとがきにしてくれていい‥せめて序文は簡単にしてほしい‥。と、正直すごく思った。こういうことは本自体の評価とはあまり関係がなく、どうでもいいことだろうとは思うけど、これがシャーロキアンの通例だと言うのなら私はあんまり好まないな、と思う次第でした。


各話感想


消えた給仕長
経外典を全部読み終えてから読み始めたけどどうも気乗りのしなかった話だった。動機も手口もあんまり好みではなかった。ただ、宿を探す捜査が少し楽しそうだった。

アマチュア乞食
タイトルについてはがんばってこじつけてたな!と思った。ワトソンさんの友人が登場し、友情に共感するホームズが見れるというサービスがおいしい。そしてワトソンさんがチラ見するホームズの様子というシーンが妙にすっごく萌えた(笑)気持わかる、ホームズがどんな顔をしてるか見たくないけど見たいっていう。あと、変装についての秘密が言及してあって面白い。

奇妙な毛虫
トリックとかはまあ私は興味ないけど、毛虫っていうか毛虫??? そんなことより「痛烈なショックを受けるホームズ」が見れるという私的にすごく美味しい設定がよかった!! 悲痛に打たれるホームズの自制心の戦いについてのワトソンさんの描写と分析がすごくいい!

高貴な依頼人
動機面が非常に微妙な感情問題で、このへんが女流らしいところかなあなんて思ったりする。オチはタイトルに相応しい上品さがあって綺麗。ワトソンさんの変装となんかひでえこと言ってるホームズが面白い。あと、お宝開封のところで犯罪的な手口を使うホームズがいい、やはりホームズはいつでも最高の犯罪者になれそうな男ってところがいい。

名うてのカナリア調教師
ネタはお断りがされているものの、正典にはなさそうなやや下品な世界についてだったので印象は良くなかったね、とても残酷な話でもあるし。しかしまたもや二人の変装が見れるところがいいですね。このパスティーシュではホームズのみならずワトソンさんも一緒に変装させられるケースがとても多い!ところがすごく楽しいです。ワトソンさんの相棒度が高いのではないでしょうか、ただあんまり活躍してはいないような気がする。この話の変装は、面白い。ホームズの度胸の凄さにもしびれるね、あの、ものすごい大金を払うところ。

流れ者の夜盗
珍しく凄い犯罪者が登場して驚く。意外とこれほどの巧妙な犯罪者って正典には数少ない気がするなと改めて思う。でも逮捕劇はなんだか既視感がばりばりで気分が盛り上がらなかった。てきぱきと組み立てられていく推理の鮮やかさは際立ていた。そういえば、僕が総監になったら!と言っていて、その想像は~すごくいい!!!妄想したい!!と思いました。超偉そうに椅子に座ってる姿が思い浮かびます。そんなホームズも見てみたいですね。

打ち捨てられた灯台
マイクロフトも登場してややスケールがでかい話だったが、私好みではなかった。トリックも突拍子がなくてぴんとこなかった。事件収集の段も政治とスキャンダルが絡み面倒くさいかんじで嫌な印象が残りがちだった。「ブルース・パティントン設計書」の続編てきな内容だけど、個人的には蛇足感。無理に引っ張らないで欲しかった。また、あとがきでも指摘されてたけど、ワトソンさんが無名‥というのはどう考えても変な気がする。
ただ、犯人の理想論を支持するホームズについては‥ これまでは消極的な表現だったこの作品の中で、ひときわ強く作者の個人的な解釈が表現されているようで興味深い、見方を変えればうるさくも感じる。しかし、ホームズの理想というのは私にはとても興味があるテーマです。この理想は、ホームズが自分の知識を論文にしてたり一冊にまとめようとしてたりすることと一致するのではないかなあと。ホームズは大変な自信家だけど、一方で自分の技術はバラバラにすると基礎的でシンプルなもので大したことはないと考えてる人に思うんですよね。なぜそれをみんながわからないのか、常にもどかしく思っている人だと思うので、すべての人が高度な知識を共有することには大いに賛成するところなんじゃないかなあと思った。あとがきでも指摘されてたけど現代的な平和主義的理想論で、ホームズはそういうのを先取りできる人物という気はする。その高い理想や美意識と現実主義的なあきらめがちのホームズとの矛盾するバランスがね~いいんだよな~。なんて改めて思いました。
ところでマイクロフトの性格ってさ~‥いまいちわからないというか、私が最初に抱いた印象と、のちの印象や、パスティーシュの印象とが違ってて、なんだかモヤモヤしている。
あと、あとがきでも触れられてて驚いたけど、「カストルとポルックス」という表現は驚きましたね(笑)いいんじゃないですか!




4488272010シャーロック・ホームズの秘密ファイル (創元推理文庫)
ジューン トムスン 押田 由紀
東京創元社 1991-05

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