[感想]絹の家 シャーロック・ホームズ

4041104513絹の家 シャーロック・ホームズ
アンソニー・ホロヴィッツ 駒月 雅子
角川書店 2013-04-27

by G-Tools



最近出てて評判がよかったパスティーシュ
なのでちょっと期待してたんですが、うーん・・
陰惨な印象で暗い気分にさせられっぱなしだった

展開自体は面白いのではないかと思うけど
読み終わった気分が 暗い……
はぁ…。 つまり、あんまり好みではなかった






概要とか


瀕死の探偵のすぐ後という設定で、かつてなく大規模な事件に立ち向かうホームズ&ワトソンさん。

あまそんのレビューを見るとなんぞ「公認」的な謳い文句があったようなのですが、私はこれはそういうのはナシで普通の無名のパスティーシュとして読むべきだと思います。あまり期待しないで読むべきだと思います。
特に「贋作」としての完成度をPUSHするのはどうかとおもう、ワトソン的とはいえない。贋作としての完成度はトムスンさんの作品のほうが私はいいと思いました。なので、基本的に そんじょそこらのパスティーシュ、ミステリーとしてはシリアスで複雑でしっかりしているパスティーシュ、と思うのがいいと思う。

ホームズもワトソンさんもそれなりに活躍するし、レストレードさんもキラっと光るところがあるし、その他のおなじみキャラもバランスよく登場する。どのキャラも冷遇されてはいない。
事件は複雑で捜査は暗中模索。ミステリーらしいかんじ。まさかのピンチと驚きの展開もあり。
と、別につまらないわけではない。でも暗い!

ホームズで陰惨な話でもどんと来い!なひとは大丈夫だと思いますが…うん、別にホームズ自身が陰惨なわけじゃあないから、そんなに大ダメージ被るわけじゃないですけど。私も別に陰惨な話がニガテというほどでもないのだけど。それにこの陰惨な内容は実はある程度最初から予想していたのにもかかわらず なんかこう、楽しく読むことは出来なかった。最初から最後まで陰鬱な気分に支配されながら読んだ。展開は目が離せない感じではあるのに、気分は沈んでた。

ホームズそのものが好きというよりはミステリー好きにオススメかと思います。



他は何を書いても結構ネタバレにあたるので、
それに辛口になりそうなので、
以下ネタバレあり注意











老いぼれワトソン


公認だとかいう謳い文句を見ていたせいで余計に堪えられなかったのだけど、本文(ワトソンさん)の筆致はドイルさんのワトソンさんとは全然違うと思う、これをあのワトソンさんが書いたのだと思おうとすると私はすごい辛い気持ちになる。思うことはないのについその謳い文句を思い出してしまい、ちょっと思うとホントにツライ。
なんといっても執筆時点の設定が死にかけ老いぼれワトソンなわけで、死にかけ老いぼれだからと言い訳するのかもしれないが、しつこく…仲間たちのその後や自分の心境などを老いぼれ筆致でうだうだ語ったのが挿入されていてそれが何よりも私の気分を憂鬱にしてくれた。テンションが下がりっぱなし。
ワトソンさんは そんなにも自分の気分や心境やその他を筆に任せて書く方ではないと思う。
いや、名もないパロディならそれもよいだろうけど、これほど苦痛に思わなかっただろうけど 公認だとか大げさな謳い文句の下にこの調子は私は堪えられないものがありました。思い起こすだけで憂鬱だ。
と思うとワトソンさんって、ほんと実直なひとだなあ。うだうだと本文中で、犯人のその後を取り扱わなかったことを後悔してましたが、そういう、本来なら語るべき所を切り落としているところにこそワトソンさんの美点が表れているのだと思うのです。だいたい、あの正典の内容でさえ、不必要な部分が多いとホームズにダメ出しされてるんだからね。この本では自分ツッコミさえしてたけどほんとうに要らない寄り道が、老いたるワトソンさんの寄り道が多かった。
だいたい序文からしてテンションがだだ下がり。 これは老いぼれた人間の心理を見事に描写しているといえるのかもしれないが、私が求めているのはそういうところじゃなかった。
思い出になってしまった連中を見たいわけじゃない。
ほんとは あのあとこうなった的なシャーロキアン的な考察を表したかっただけじゃないかと思う。その気持はわかるけど、読み手としてはまったく求めていなかった、私は。

ただ、悔しいんですけど、
最後の最後の一文は、やむを得ず泣いたというか、泣かずにいられなかっただけで泣いた。
ホームズよ永遠に!ってことだね
ちくしょー 言われなくてもわかってらぁ




陰惨な事件


悪いやつを捕まえても気分が晴れない。一部の悪い奴が逃げおおせたとかそういう表面的な事象はどうでもいいのだ。そういうことじゃなくてそれ以前に痛快な感じがなかった。捕まえても悪びれない悪党、最後まで顔も見えない悪党。一方で魂からの復讐者…こっちのほうがドイルさん的な犯人像であろう人物がどうでもいい感じで陰鬱なもう一つの事件に流されて地味なままでぼやけて終わってしまったかんじ。いずれもすっきりしない、痛快じゃない。
ドイルさんの作品は悪党が悪いやつではあるんだけど、ちょっとたまに同情できたりする。あるいは反省したりする。納得できたりする。せめてこの事件では復讐者にもう少しスポットを当てて後味を良くすべきだったと思う。絶対にそう思う。美しき復讐者によって少しは口直しに出来たはずだ。
ああ思い出すだけで 嫌な気分になってくる。

いや、この事件の真相は 実はあまそんのレビューを読んでるだけで 読む前からある程度察しがついていた。こうなるだろうと思ってた。だから 真相を見てもそんなにショックも嫌悪感もなかった。私の嫌な気分は 犯罪の陰惨さとはたぶんあんまり関係がない。
やっぱり全体的に嫌な感じがする。よくわからないけど。前述の問題もあるし、犯罪者たちのもやっとした末路、被害者たちの虚ろなこころと無念な死、他にもいろんな点でとにかく嫌な感じがする。いちいちあげるのが面倒くさいわ。むしろ思い出したくない。ああでもこの話で死んだ人物たちはなんとも虚ろだった。ホームズが悲しんでくれるのがかいま見えるからなんとか我慢できるけど、思い出すとほんとに酷い。愛がない。
一番の悪役として描かれてた敵の末路でさえ 全然納得行かなかったすっきりしなかった。むしろワトソンさんが言うように撃ち殺したほうがずっとスッキリしたぜったい。でもワトソンさんを罪人にしたがらないホームズの強い気持ちがあったんだろうと思って萌えとこうな。絶対ワトソンさんを人殺しにはしたがらないだろうなあ、自分がどんなにひどいことしたって。でもワトソンさんのその燃えるような正義感に対して強く憧れてるんだろうと思う。


ホームズの悲痛


この話の一番いいところは、ホームズの深い悲痛。
深い深い自責の念、深い深い哀れみ、心のきしみ。
その辛さがまた物語を強烈に暗くしているんだろうね。

でも事件のことを切り離して考えると、
なかなかこれはホームズの戦う理由を語るともなく描き出しているなと。
己の正義の為に悪の中に身を投じ、心を捨てるホームズの姿。その激しい苦しみ。
ホームズが身をおいているところが 本当はいかに苦しみに満ちているか
だからホームズはこんなに歪んだ人物なのだと、
そういう説明になり得ているなと思います。

確かにドイルさんの作品ではこれほど陰惨な事件が少ないので、探偵業によるホームズの精神へのダメージを意識しないで読めてるんだよな。この話はホームズがどれほどひどく ひどく精神の衛生を傷めているのがよくわかるので。しかもそういう穢れや苦痛をまるごと飲み込んで平然と行動しようとしているので、どんなにズタズタの心を持っているかがうかがえる。とっくにズタズタなのに、性質としてどうしようもなく情け深い、どんなに心がズタボロでも情けが捨てきれない。
この話のマイクロフトは冷徹だったけど、シャーロックは冷徹には到底なりきれず、マイクロフトとシャーロックの気質の違いというか素質の違いをも考えさせられる。探偵としてもほんとはマイクロフトのほうがずっとずっと優れていたかもなと思わせる。シャーロックは絶対にマイクロフトのようにはなれない、職業的にもマイクロフトと同じことは素質的に出来ようもない、劣っていると言うことができるほど。悲しいなあ。
この事件の末路をマイクロフトの意見と合わせて思い起こしてみてもそうだなあ、たぶんホームズがやったことは結局個人的な復讐でしかなくて何の意味もなかった。放っておいたほうがずっと被害者が少なくて済んだ。
放って置けなかったモリアーティ教授もホームズも、自分勝手で感情的で、自分を構成するひとりよがりな美意識を貫くその感情的な行動こそ、正義となったり悪となったりするものだ、むしろ横暴な悪ととらえることができるんじゃないかな。モリアーティ教授に導かれ、社会に横暴な正義を振りかざして何人かの死ななくてよかった人を殺した。被害者が全員善人ではないにしろ、誰だって完全な善人じゃないからね。ホームズが乗り出さなければ…ホームズが乗り出したのはモリアーティ教授の意図通りなのだし、乗り出さなければ、ひどい目にあったり死ななかったりした人は多い。

それでもひとりきりで夜に、心を焼き殺しに行くホームズの後ろ姿が かなしくてかっこいい。
どうしようもなく 悲壮。




ピンチのホームズ&ワトソン


ホームズ大ピンチ+ワトソン大ピンチもあったので、いずれも二人の友情を描こうと~してる・・と、思うんだけどもなんだか、ワトソンさん刺されてたりその他してた割にアッサリと回復してたので…ホームズ→ワトソンさんテイストが意外と物足りなかった。もうちょい個人的にはワトソンのピンチを拡大して欲しかった。傷が悪化したりして欲しかった。でも実はワトソンさんがほんとにピンチになると、ホームズって色んな意味で駄目になると思うんで。一時的に攻撃力はUPするとおもうけどいろいろボロが出ると思うので、結局破滅してしまって物語がバッドエンドになるため、ワトソンさんのピンチってあんまり増強できないんじゃないですかね。うーんさすがワトソンさんなのです>< でも私はそんな展開がみたいですけどね!

一方でホームズはどんなに死ぬほどピンチに追い詰めても、ゴキブリのようにギリギリでしぶとく生き延びて復活してしまうのでなんでもできるのだ。このとおり、麻薬を飲まされ殺人罪をかけられて、牢屋に打ち込まれ、拷問まがいの取り調べを受けさせても、しまいに致死量の毒を飲ませられても(飲まないから)大丈夫(笑) ほんとにゴキブリ並の生命力!
でも死にそうなホームズを見るのは萌える。前後不覚で人事不省なホームズを見るのはめっちゃ萌える(笑)なんでしょうこの気持ちは(笑)毎回思うけどそういうのは萌える。完璧すぎるからかな。
無実の罪をかけられて今にも殺されそうなホームズを心配するワトソンさんの気持ちは当然感情移入してもえました。抱きしめそうになってた気持ちがめちゃくちゃわかるとも。あれたぶん萌ポイントっすね…、なんか変な言い回しも気になった。妙な遠慮などなしに抱きしめればいいのに!抱きしめるべきところだ! もちろんホームズは大困惑して迷惑がるだろうけど。全く屈してなどいないので全然不要な同情だと思うだろうけど、でもたぶん嬉しいと思います(笑)


その他のキャラ


レストレードさん…花を持たせてもらっててよかったねえ。なんか確かにキャラ違うかもと思ったけど、まあ現代的な解釈としてはこういうキャラはいいんじゃないでしょうか。ツンデレっていうか。正典ではこんな印象はほとんどないけど、ファンとしてはたまにこうやって肩を持ってくれると嬉しいっていう…そういう気持ちはある。

イレギュラーズ…結構主題になっているのに、あとは登場しなかった。いや、ホームズが激しく後悔して、もう彼らを巻き込みたくない!と決意したのだからそれはそうなんだけども。ホームズはやっぱり子どもたちが大好きだよね。自分が子どもたちを自分の子供のように愛してこなかったことに激しい後悔をするホームズの愛情が…そういう発想に至る時点でその深い愛情が…大好きだな。こども好きのホームズ大好き。

マイクロフト…前述のとおり情け深すぎて間違った方向に走っているかもしれないシャーロックと比較すると、この冷徹さにも価値があると思える。でもそこまで深く考えずに普通に読んでいたときも、まあこんなもんだろうとおもった。この兄弟の関係は普通じゃないんだから、むしろ思ったより温かい対応をしていたと思います。

メアリー…ん~………引き立て役でしかなかったですね。うう~ん。ホームズに敗北宣言もしているし、その後そのまま回想になってしまうし。ツライ。メアリーの死についてって実は贋作作家の…悪い意味でも腕のふるいどころというか。つい書きたくなってしまうのがわかるんだけど、ワトソンさんの筆致においてはこれはあまり書きすぎるのはよくないことだとおもったりする…。いてて

モリアーティ教授…教授はよかったんじゃないですか。あ、描写がね。かっこよかったです。ほとんどやってることはホームズと同じ様子なのがまたよかったんじゃないですか。 でも、確かに出す意味あるのかどうかは…微妙。微妙だけどホームズと教授がやってることが所詮同じであるという考察をできるとすると面白い。そうしないなら要らないかもしれない。ワトソンさんは警戒したままでちょっと気のないお礼を言っただけだったけど、私的には、相手が悪人だろうとなんだろうと死ぬ寸前のホームズを助ける手助けをしてくれるなら…感謝は厭わないと…まあそこまで感情的じゃないところがストイックでしたかね。




最後に


最後の最後で悔しくも泣かされた
あー悔しいホントに悔しい不本意だ
でも、ヴァイオリンを弾くホームズが大好きなんだもん。

自分のために弾いてくれると思うワトソンさんに泣けてくる。
ホームズがワトソンさんのためにヴァイオリンを弾く時間なんてほんとはさほどじゃないし気乗りもしてないんだろうに。それでもそれがワトソンさんにとってホームズとの永遠なのだと思うと。ワトソンさんとホームズの永遠なんだと思うと。
気取って楽しそうに演奏しているだろうなあ






でもそんな 過去の永遠なんて…まだ飲みたい気分じゃない。





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アンソニー・ホロヴィッツ 駒月 雅子
角川書店 2013-04-27

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